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マラソンと低体温症

マラソンと低体温症

ひろせ整形外科リハビリテーションクリニック 廣瀬 大祐

 マラソンにおいて暑い場合の熱中症と同じくらい気を付けなければいけないのは寒い時の「低体温症」です。最悪の場合、命を落としかねない危険な症状です。

低体温症とは?

 普段36~37℃の体温が寒さなどで低下してくると、人間は体をガタガタと震わせて体温を保とうとします。しかし、それが長く続くと体力を消耗し体温維持が出来なくなってきます。そして体温が35℃以下に落ちてきた状態を低体温症と言います。この体温は体の表面温度ではなく、体内の温度(深部体温)が35度を下回ってしまうことをいいます。
 日本救急医学会によると、「深部体温(直腸温,膀胱温,食道温,肺動脈温など)が35℃以下に低下した状態」と定義されています。原因としては、①寒冷環境,②熱喪失状態,③熱産生低下,④体温調節能低下など、これらが単独あるいは複合して発症する、とされています。

低体温症の症状は?

 フィールドでは深部体温の測定ができませんので、その症状で判断します。
 ランナーが筋痙攣した場合、脱水症(熱中症)を疑いますが、体の震えの場合は低体温症を考えます。
・体が震える
・体がうまく動かせない(歩行困難)
  これ以下は中等症から重症です、早急な医療機関への搬送が必要となります
・話しかけられても反応できない、頭がぼーっとする(意識低下)
・適切な判断ができなくなっている
・徐脈・筋肉硬直・不整脈 など

なぜ、冬場のマラソンにおいてランナーが低体温症になるのか?

 市民ランナーの場合、屋外での活動時間が長く、気候などによって低体温症になるリスクが上昇します。
・気温が非常に低い
・長い距離、時間を走り大量の汗をかいた
・雨が降っていて身体が濡れている
・気温が低い中薄手のウェアを着ている
・風が強い
 体や衣類が湿った状態で風にさらされると気化熱により急激に体温が低下することがあります。風がそれほど強くない日でも、走ることによって体は風を受けることになるので、体温が奪われます。

低体温症から身を守るためには?予防策?

 まず、マラソン大会に出場する場合、冬場の寒い時はスタート直前まで肌を露出しないようにしましょう。スタートまでの待機中に極力体温を奪われないようにベンチコートや肌を覆うものを着てスタートまでのアップをするようにします。
 また、寒い日に忘れがちなのは水分補給です。走っている最中に脱水症状になってしまった場合、低体温症のリスクも高まると言われています。
 寒い日のマラソン大会においては、インナーウェアを着るのもおすすめです。肌をできるだけ乾いた状態に保つことが、体温低下を防ぐことにつながります。汗を吸い込む生地のインナーウェアがおすすめですが、雨の日などは逆に撥水性があるものを着るようにし、できるだけ身体をぬらさないようにしましょう。
 低体温症を防ぐためには、身体をぬらさない、汗をかいても冷たい外気で急激に体温を奪われないようにすることが大切です。帽子や手袋を着用することも良い方法です。

低体温症になってしまったら

・風雨のない環境に移動
・乾いた衣類に着替える
・体温が奪われない様に毛布などで体を包む
・暖かい(甘い)飲み物を少しずつ飲む(カフェイン、アルコールは避ける)
・医療機関への搬送
 体温は急激に上げず、徐々に暖めてください。体を無理に動かさずに安静を保ち、暖かくて砂糖など炭水化物が含まれた飲み物を少しずつ飲みましょう。
 わきの下や脚の付け根を暖めるのも体内の温度を上げるのに効果的です。

経過観察及び復温中の注意点:After Drop とRewarming shock

 復温を開始した後も急激な変化が起こり得るため、注意が必要です。

①After Drop

 ランニング中は体幹部の温度を保ち、四肢末梢側の温度は低くなっています。終了後や復温により、四肢末梢の血管が拡張し、低温の血液が体幹側に流入し、深部体温の低下が進んでしまうことをAfter dropと言います。不整脈発症のリスクとも言われています。

②Rewarming Shock

 低温環境では利尿が進み、またランニング中の発汗などで体内の水分量は低下していますが、競技中は末梢の血管が収縮することで体幹部の水分量が保たれています。終了後や復温中に末梢の血管が拡張していくと、全身の必要水分量が急激に増加し、血圧が保てなくなることがある。これをRewarming Shockと呼び、意識消失など重篤な状態になるリスクがあります。

 高知龍馬マラソンは幸いに天候には恵まれることが多いですが、冬場の天候は大きく変動します。自身の体調も、天候にも注意しつつ、適切な対策をとって楽しんでください。