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5場所連続休場鶴竜、診断書「左半腱様筋部分断裂」

5場所連続休場鶴竜、診断書「左半腱様筋部分断裂」

スポーツドクター 川上照彦(吉備国際大学)

 日本相撲協会は大相撲春場所初日の14日、5場所連続休場の横綱鶴竜(35=陸奥)の「左半腱様筋部分断裂により3月場所の休場を要する」との診断書を公表した。 鶴竜は初場所を腰痛により休場。進退をかけて春場所出場を表明していたが、9日の稽古中に負傷して一転休場した。11日に師匠の陸奥親方(元大関霧島)と進退問題を協議した際、現役続行を希望。しかし、昨年11月場所後に横綱審議委員会から「注意」が決議され、さらなる意見は避けられそうにない。(2021年3月14日 日刊スポーツ) 春場所の白鵬、鶴竜、両横綱の出場、照ノ富士の大関とりを楽しみにしていましたが、鶴竜はこの記事にあるように初日から休み、白鵬も3日目から膝の負傷で、またまた横綱不在の場所になりました。今回はこの鶴竜の「左半腱様筋部分断裂」、いわゆる「肉離れ」について病態と治療、予防について解説いたします。




 肉離れは、一般的に、スポーツ中に急激に筋肉が切れたように痛みを感じ、競技の続行が困難な状態を言い、筋肉の収縮時にその筋肉が思わず引き伸ばされた時や、逆に筋肉が引き伸ばされようとしている時に急に筋肉を収縮させると発生します。筋肉が疲労し、柔軟性が失われている時に起こりやすいと言われています。筋線維、筋膜、腱膜、腱、そしてそれ等への栄養血管のどれか、またはこれらの複合的な損傷であり、図1に示す奥脇の分類により重症度を判定し、どのように治療していくかを考えます。


 Ⅰ型は筋肉への栄養血管や、筋線維そのものの部分的な損傷であり、症状も比較的軽度で、病院を受診せずとも急性期のRICE療法後、痛みに応じて1週間程度の安静の後、ストレッチをしていく程度でほとんどが良くなります。
 Ⅱ型は筋線維が集まって腱組織に移行していく場所での断裂であり、競技復帰まで5~6週程度かかり、注意して治療していかないと再発を繰り返すことになります。
 Ⅲ型は筋肉が腱組織として骨につくところの断裂であり、治療を誤ると筋力の低下により競技力が低下し、手術が必要となる肉離れです。アキレス健断裂もⅢ型の肉離れであり、手術が行われます。図1の奥脇の分類はMRIを基にしたものであり、痛みが強く、十分筋肉を伸ばせないときは病院を受診し、MRIを撮るか、超音波で診断してもらうことをお勧めします。



 図2はハムストリング(膝を曲げる筋肉)の坐骨への付着部での断裂であり、手術を必要とするものです。 肉離れの予防は普段のストレッチで、筋肉の柔軟性を保ち、左右差や偏りの無い筋力をつけておくことや、十分なウォーミングアップ、そしてクーリングダウンで疲労を残さないことなど、コンディションを整えておくことが重要です。まずは普段の練習から考え直してみてください。