> しゃがめないスポーツ選手

しゃがめないスポーツ選手

しゃがめないスポーツ選手

スポーツドクター 藤田 幸子(図南病院 整形外科)

 現在、行われている中学、高校生のスポーツ選手の運動検診のチェック項目のひとつに、『しゃがみ込みテスト』があります。




 靴を脱ぎ、踵を床につけて左右の膝と足部をくっつけた状態で、臀部と踵部が近づくまで、腰を落として5秒間保持出来るか、上の図のようにGrade 3まで、クリア出来れば、問題ありません。しゃがみきれないGrade0は、要注意という診断になります。
 しゃがみこみ動作には、足関節だけでなく、股関節、膝関節の十分な屈曲が必要な上、筋力と重心バランスが重要で、体重が後ろにかかって、尻もちをついたり、膝が離れたり、踵が浮く生徒が多く見られます。
 昭和の時代までは、我々日本人は、欧米と違って畳中心の生活で、正座したり、あぐらをかいたり、和式のトイレを使っていました。しかし、現在の生活様式では、机と椅子の生活が当たり前で、家庭でも学校でも、洋式トイレを使い、正座や、しゃがみこみ動作をする必要が少なくなっています。
 また、小学生のころから、特定のスポーツを始めた場合、成長期の骨のスピードに、骨に付着する腱、靭帯組織、筋肉の成長のスピードが追いつかず、アンバランスになって、軟部組織が引き延ばされて柔軟性を失う上に、激しい運動で、さらに、筋肉のストレスが増えて、ますます筋肉の柔軟性、関節の柔軟性を失います。活動的で、熱心にスポーツをする生徒が、スポーツをしない生徒より、身体が硬くなりやすい、しゃがめない生徒になりやすいと言えます。
 小学生から、スポ−ツに打ち込んで高校生になった時点で、すでに長いキャリアがあり、これからの試合の成果を求めて、激しい運動を続けると、高校生では、まだ骨の成長は完成していないので、筋、腱、靭帯、骨にさらに余分な負担がかかり、スポーツ障害の原因になります。
 検診で、しゃがめないこと、柔軟性の問題を指摘しても、近い試合に集中して、聞き入れない生徒もいます。確かに、日常生活には、しゃがめなくても、不自由がないし、スポーツ活動で、怪我をしたことが無ければ、生徒にとっては、理解出来ないことでしょう。
 しかし、検診で、しゃがみこみテストが陽性と診断された生徒、また、現場で、脊椎や、上肢にも柔軟性がないと気になる生徒には、クラブ活動の前後だけでなく、日々、脊椎、股関節、膝関節、足関節のストレッチ、また、足趾のストレッチも、辛抱強く、指導していただくことをお願いします。