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リカバリー ~睡眠が競技力向上の近道~

リカバリー ~睡眠が競技力向上の近道~

アスレティックトレーナー 中森 徹(高知県スポーツ科学センター)

 アスリートにとって、日々のトレーニングや競技活動からパフォーマンスを最大限に引き出すためにリカバリー(回復)は欠かせません。スポーツ現場では、リカバリーは回復だけでなく、「次の高強度トレーニングや試合に向けた準備」とも捉えられています。
 スポーツ現場では、トレーニングや栄養に注目が集まりがちですが、近年、リカバリーの中の「睡眠」が競技力向上の重要な要素として注目されています。

 睡眠不足は単に眠いだけではなく、身体機能、判断力、集中力及び回復能力の低下につながることが明らかになっています。
 睡眠中には子供の成長や筋肉や組織の修復を促す成長ホルモンが分泌されます。また、脳内では日中に学習した動作や戦術の整理・定着が進み、運動学習にも重要な役割を果たしています。そのため、十分な睡眠は疲労回復だけでなく、パフォーマンスの向上にも欠かせません。
 バスケットボール競技者を対象とした研究では、睡眠時間を意図的に延長することで、反応時間、スプリント能力及びシュート精度などのパフォーマンスが改善することが報告されており1)、睡眠不足はケガや体調不良のリスクを高めることも知られています。特に成長期の選手では、睡眠時間が短いほどスポーツ障害の発生率が高くなることが報告されています2)

自分に必要な睡眠時間は?

 一般的に7~9時間の睡眠が推奨されていますが、アスリートはトレーニングによる身体的、精神的負荷が大きいため、8~10時間程度の睡眠が望ましいとされています。実際にエリートアスリートを対象とした研究では、「十分に休めた。」と感じる睡眠時間は平均8.3時間であった一方、実際の睡眠時間は平均6.7時間で、多くの選手が慢性的な睡眠不足の状態にあることが報告されています3)。必要な睡眠時間は、日中の活動量や疲労度、睡眠環境や睡眠に至るまでの準備などで変わるため、自分の活動において必要な睡眠時間を知る必要があります。
 睡眠時間を知る方法としておすすめなのが「睡眠日誌」をつけることです。就寝時刻、起床時刻、日中の眠気、練習の調子などを記録し、その中で「目覚めが良い。」「日中眠くならない。」「練習や試合で集中できる。」と感じる日の睡眠時間を確認します。最近ではスマートウォッチや活動量計を活用する方法もありますが、まずは主観的に睡眠時間と体調やパフォーマンスの関係を把握することが重要です。記録を始めた数日間は、今までの睡眠不足から回復しきれておらず、睡眠が足りていないと感じることが考えられるため、1~2週間は継続して確認しましょう。
 睡眠研究でも睡眠日誌は現場で活用しやすい評価方法として広く用いられています。

睡眠の規則性

 さらに近年は、「睡眠時間」だけでなく「睡眠の規則性」の重要性も注目されています。平日と休日で起床時刻が大きく異なる生活は、体内時計を乱し、睡眠の質を低下させる可能性があります。毎日できるだけ同じ時間に寝て、同じ時間に起きることも競技力向上につながる大切な習慣です。
 良い睡眠を得るためのツールとして枕やマットレスなどの寝具、寝間着などもアスリートを対象に研究開発され、一般で入手できるようになっています。そういった「物」を活用するのも1つの方法ですが、自分に必要な睡眠時間を知り、規則的に習慣化することが基本となります。

睡眠の質を高める

 リカバリーの方法の1つである入浴では、高温(42℃以上)の湯船に浸かると、深部体温の増加や交感神経の活性が過度になることで寝つきが悪くなり、リカバリー効果を得るためには望ましくありません。深部体温が低下する時間を逆算し、就寝の90分前位に適度な温度(38~40℃)の湯船に浸かることで入眠が促されます。

睡眠が競技力向上の近道

 アスリートは身体的な疲労だけでなく、脳も疲労(精神的疲労)します。この精神的疲労の蓄積により、今までできていた運動に対して、早くに「きつい」と感じ、運動継続時間が短くなります4)。日常の練習やトレーニングだけでなく、仕事や学業で長時間の集中作業、意思決定や学習からも脳疲労は蓄積されます。最近、スマートフォンを使用してSNSやゲーム、動画視聴により余計に疲労し、貴重な睡眠時間までもが削られていることをよく耳にします。
 睡眠は最も身近なリカバリー方法です。睡眠に対して意識が薄かった、行動できていなかった競技者にとって「良い睡眠によって練習の質と効果を高め、試合にベストコンディションで臨む。」という視点を持つことは、競技力向上への近道と言えます。




〈引用文献〉
1)Mah, C. D., Mah, K. E., Kezirian, E. J., & Dement, W. C. (2011). The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep, 34(7), 943–950.
2) Milewski, M. D., Skaggs, D. L., Bishop, G. A., Pace, J. L., Ibrahim, D. A., Wren, T. A. L., & Barz Dukas, A. (2014). Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes. Journal of Pediatric Orthopedics, 34(2), 129–133.
3) Sargent, C., Lastella, M., Halson, S. L., & Roach, G. D. (2014). How much sleep does an elite athlete need? Clinical Journal of Sport Medicine, 24(1), 65–71.
4)Marcona SM, Staiano W, Manning V. Mental fatigue impairs physical performance in humans. Journal of Applied Physiology. 2009;106(3):857-864.

〈参考文献〉
1.独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター編
アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン―ハイパフォーマンス発揮のためのセルフコンディショニング―.2023.
2.臨床スポーツ医学編集委員会.臨床スポーツ医学.2025;42(6):特集「ハイパフォーマンス発揮に向けたリカバリーの科学と実践」.