スポーツと疲労について
スポーツ医・科学 委員会
スポーツと疲労について
図南病院 藤田 幸子
我々日本人は、日々『お疲れさま』と周りの人に挨拶をして一日の仕事や活動を終え、心身をリフレッシュしています。
この言葉は、グーグル検索によれば、古くは平安時代から感謝とねぎらいの言葉として使われていたそうです。美しい言葉ですね。
『お疲れ』、つまり疲労とは、デスクワークでも人間関係でも、また、娯楽、スポーツ等のあらゆる活動によって、身体や心に負担がかかった結果、身体のパフォーマンスが低下する自然な生理現象です。
私達の身体は自分の意思とは無関係に、呼吸、心拍、血圧、消化、体温等の生命維持を自律神経によって自動的に調整しています。
自律神経には交感神経と副交感神経の二神経があり、精神的にストレスが加わったり、活発な身体活動時には交感神経が優位になり、心拍数や血圧を上げ、身体や脳を活動モードにします。
反対に副交感神経は、リラックスした際、休息中、睡眠時に心拍数、血圧を下げ消化を促して回復モードにしてくれます。
スポーツやトレーニングでは、日常生活よりも身体や脳に大きなストレスがかかります。筋肉や関節にかかるストレスに伴い、呼吸数、心拍数も上昇し、発汗し体温も上昇します。
ハードなスポーツを長時間続けると、筋肉のエネルギー源である糖質も不足し、スタミナ切れが起こります。自律神経中枢は、脳や身体に、活動に応じて多くの酸素や栄養を供給しようとしますが、自律神経細胞自体にも負荷がかかり、神経の働きも追い付かなくなり疲労が生じてきます。
しかし、ある時点から、脳内から生成されるエンドルフィン等により、達成感や、高揚感、幸福感を感じる『ハイになる』状態になり、疲労感を感じなくなることが知られています。
そのため、筋肉組織、神経細胞の回復が不十分なままスポーツを続けると、心身の疲労が蓄積し、オーバートレーニング症候群(慢性的な疲労、パフォーマンスの低下、精神的な不調等)に進行します。
アスリートが疲労を回復するために、以下のことを心がけましょう。
①休息
疲労回復の基本は休息です。自律神経は睡眠を制御しているので、神経が機能不全になると睡眠リズムが崩れ、さらに快眠も得られなくなります。十分な睡眠時間と良眠を得ることが大切です。
②入浴
入浴は、浮力と水圧によって血流を良くすることが目的なので、38度から40度のぬるめの湯で、長湯ではなく5分程度つかることで、血管は拡張し血行が改善します。
③アクティブレスト
軽いジョギングやウォ−キングの有酸素運動は、血行を促進し、自律神経を整えます。
④栄養
エネルギー源になる糖質や、糖質をエネルギー源にかえるビタミンB1(豚肉、玄米、大豆製品、ナッツ他)やアミノ酸の摂取は、筋肉の疲労にも有効です。
⑤ストレッチやマッサージ
血行も良くなり、リラックス効果も得られます。
⑥運動後のアイシング
15分程度で筋肉の血管の収縮と拡張を促進し、血行を改善します。
これらの疲労回復方法は、スポーツだけに限りません。
自律神経の機能は、残念ながら年齢とともに低下していきます。
40代になると、20代の半分、50代で三分の一、60代で四分の一に低下すると報告されています。
プロスポーツ選手の多くが40歳までに引退するのは、いくら身体を鍛え筋肉をつけても、自律神経は鍛えることが出来ず、むしろ激しい運動は老化を早めると報告されています。
スポーツによる達成感や、高揚感にごまかされず、朝起きるのがつらい、眠りが浅い、身体が重い、食欲が無い、集中力が落ちている等の見落としがちな身体のサインに耳を傾けて、疲労を蓄積せず、私達の人生をより豊かなものにしましょう。
