アスリートの心肺停止、その時に胸骨圧迫、AED(Automated External Defibrillator: 自動体外式除細動器)の対応ができるでしょうか?
スポーツ医・科学 委員会
アスリートの心肺停止、その時に胸骨圧迫、AED(Automated External Defibrillator: 自動体外式除細動器)の対応ができるでしょうか?
理学療法士 木下 雄介(医療法人山村会 介護複合施設 輝)
スポーツ中の心肺停止の頻度
若いアスリートでは、推定で100,000人に3人の頻度で、不整脈を突然発症して運動中に突然死するケースが報告されます。女性よりも男性の方が最大10倍多くみられます。リスクが最も高いのは、米国ではバスケットボールとフットボールの選手、欧州ではサッカー選手です。発生率は低く、ほとんどの方がそのような現場に遭遇することは生涯ないかもしれません。自分自身もそのような現場に遭遇したことは1度だけ、当時はAEDの普及はない時代でした。ただ近年、世界的に若いアスリートの心肺停止報道も増えているように感じます。
AEDの歴史
AEDは2004年7月1日、厚労省より各自治体宛に通達が出され、それによりAED(自動体外式除細動器)を医療従事者でない一般市民が使用して救命することができるようになりました。AEDの一般解禁後18年間で7,656人の命が現場の市民によるAEDで救われているようです。
現場のAEDによる救命の第1号は解禁から8か月目の2005年2月20日の泉州国際マラソンにおける事例になります。その際は走っていた医療従事者が併走していた救護者のAEDを使って救命に成功しています。同年開催された愛知万博では300m毎に設置されたAEDを使って会期中に発生した5人の心肺停止の中、4人を救命できました。2007年より始まった東京マラソンでは11人の市民ランナーがマラソン中に心肺停止で倒れたが、11人全員がAEDで救命されています。又、2016年高知龍馬マラソンでは2名のランナーが心肺停止となり走っていた医療従事者による胸骨圧迫とAEDにより一命を取り留める事ができた事例は記憶にある方も多いのではないでしょうか。
スポーツ現場に帯同する理学療法士、トレーナー、指導者
今ではあらゆる公共施設、スポーツ施設でも多く設置されていますが、皆さんAEDが施設のどこに設置されているか理解されているでしょうか?スポーツ施設では選手、指導者共に競技でよいパフォーマンスを発揮するための準備に没頭されるかと思います。そのような時にAEDの設置場所を気にされてない理学療法士、トレーナー、指導者、選手も数多くいるのではないでしょうか。もし心肺停止の現場に遭遇した時、すぐに対応できるでしょうか?普段使用しているスポーツ施設でAEDの設置場所がわかるでしょうか?現場に医師が常駐する事は少なく、関わる皆さんの理解や行動が重要です。
その場に遭遇した時に
心肺蘇生の主たる目的は、全身、特に脳への血液供給を維持する為であると同時に、心筋細胞を少しでも良好な状態にして電気ショックに反応できるようにすることにあります。それには強く速く絶え間ない胸骨圧迫が不可欠でありAEDに繋げることが重要です。又、救命の為には5分以内、理想をいえば3分以内にAEDショックをかけられる体制が求められ、片道1分、往復2分の場合や、離れた場所から持ってきてもらうには片道2分以内で届け1分以内に電極パットを貼付し電気ショックを施すことが目標であり、3分以内のショックで9割以上の救命を達成することができます。1分遅れることに10%生存率が低下することからスピードが重要となります。現場で心肺停止かどうか迷ったときは積極的に胸骨圧迫、AEDを使うことが推奨されています。
各地で開催される講習会
日本赤十字社や消防署が主導して各地で救命講習会が開催され、最近では中学校や高等学校でもAEDを含めた救命教育が急速に広がっている。先日の新聞報道に病院外で心臓が止まった人に対して、心肺蘇生を行った人が事前に救命講習を受けていた場合、回復率が大幅に向上したとの調査結果が報告されており、「心肺蘇生の効果を最大限に引き出すには、より多くの市民が救命講習を受けることが重要だ」との指摘がありました。高知県理学療法士協会ではスポーツ現場で対応する理学療法士を要請する際、救命講習会の受講を必須としており、数多くの理学療法士を高知龍馬マラソン等に派遣しております。スポーツに関わる皆様にも関心を持っていただければと思います。