> スポーツ医・科学委員会 > スポーツ医・科学豆知識 > 大谷翔平選手が受けたトミージョン手術って何?

大谷翔平選手が受けたトミージョン手術って何?

大谷翔平選手が受けたトミージョン手術って何?

上田 英輝(野市中央病院)

 先月の大谷翔平選手の話題に続きます。右肩を受傷してしまったことは残念でしたが、そもそも投手として投球する右肘関節の靭帯再建術術後のリハビリをしていたんですよね。リハビリ中の選手がMVP取るなんて異なる世界線に生きている人のようです。そこで「トミージョン手術」「ハイブリッド」とかいう用語が記事で書かれていたかと思います。
 「トミージョン手術」とはフランク・ジョーブ医師によって考案され、1974年トミー・ジョン投手に対して行われたのが始まりで、野球投手の肘関節内側側副靭帯損傷に対して行われる靭帯再建手術の名称です。投球動作では振りかぶってからボールのリリースまでの間、肘関節内側に強い牽引力がかかります。投手であれば繰り返し負荷によって最終的に前斜走靭帯が破断することになります。MLB投手の25%がこの手術を受けているとされ、平均で5.3シーズン投げると生じると言われています。近年では手術を受けた選手の約80〜90%が実戦復帰を果たしています。日本のNPBでも一軍復帰割合は7割以上と言われており、選手たちには信頼されている手術方法といえます。
 手術は傷んだ靭帯を切除して骨に孔を穿ち、前腕から採取した腱(長掌筋)を束ねて骨孔に通しネジなどで固定します。様々な亜流がありますが源法でも手術成績は安定しています。欠点として移植した腱が生着するのに時間がかかり、投手として完全復帰するのに1.5シーズンかかると言われています。リハビリを乗り越えると復帰時には「球速が上がる」とのデータもあります。一方で、大谷選手も起こしてしまったように再断裂が初回手術後から3~5年で15%生じるとされています。
 再手術を行うにしてもすでに腱を取っていますので、代替品が必要となります。そこで2010年後半からアメリカでインターナルブレースと称する人工靭帯を傷んだ再建靭帯に加える方法が出始めました。そこでトミージョン手術に併せて人工靭帯で補強する「ハイブリッド法」が主流になりつつあります。ここでいう人工靭帯はあくまでも移植腱が生着するまでの間、物理的に関節を支えるための構造であって主体は移植腱です。しかし、原法よりは関節が早期に安定するので、復帰までの期間が短縮され、生体よりは切れにくい人工靭帯が残っているので再断裂(再々断裂)しにくいとされています。また初回受傷でも程度が軽くて不全断裂だった場合に、傷んだ靭帯を残して人工靭帯を植え付けるインターナルブレース法も早期復帰が可能で、術後半年程度で投球できる例があるようです。
 2025年は大谷選手が投手としても活躍して完成された二刀流を魅せてくれるのが待ち遠しいですね。