呼吸とスポーツについて
スポーツ医・科学 委員会
呼吸とスポーツについて
図南病院 藤田幸子
私達人間は、生まれてから日々、口と鼻から無意識に空気を吸い込み、身体の隅々に酸素を送っては、身体の外に二酸化炭素を吐き出す呼吸を繰り返しています。生命維持に必須な呼吸回数は、平均1日約3 万回にものぼり、スポーツ活動には、特に意識的な呼吸が重要なことは、一般にも良く知られています。
ストレッチや、筋力トレーニング、競技の種類、またリラックスして休息する際にも、呼吸の仕方には違いがあります。再確認してみましょう。
①ストレッチと呼吸
ストレッチでは、深い呼吸を止めずに繰り返すことが鍵とされています。
それには、内臓の働きを調整する自律神経と深くかかわっています。自律神経は、活動時に活発化する交感神経と、休息時に活発化する副交感神経とが、バランスをとっています。呼吸には、腹式(胸腔と腹腔の境の横隔膜という筋肉を使う)と胸式(肺のまわりの筋肉を使う)呼吸がありますが、ストレッチでは、副交感神経優位な腹式呼吸で酸素を多くしっかり吸い込んでゆっくり長く吐き、心身をリラックスして、筋肉の伸びを良くし血流を促すことが大切です。
②筋トレと呼吸
正しい呼吸で酸素を沢山取り込むと,エネルギー消費量が増え、ハードな筋肉トレーニングも可能となり、筋トレに伴って交感神経が刺激されて起こる血圧上昇のリスクを抑えることが出来ます。激しい活動時、息が上がる浅く早い呼吸は、胸式呼吸ですが、筋トレでは、ストレッチと異なり、活動時に活発化する交感神経優位な胸式呼吸が適しています。
筋トレでは、筋肉が伸びる時に、鼻から息を吸い、縮む時に、口から息を吐くのが、基本的なリズムです。
★スクワット
膝を曲げてしゃがむ際(大臀筋や、大腿四頭筋が緩む)息を吸い、立ち上がる際は、息を吐きます。この場合は、腹圧を高めるので胸式より腹式呼吸が有効です。体幹も安定します。
★腕立て伏せ(プッシュアップ)
床面に身体を下げる際(肘を曲げる)息を吸い、身体を上げる際(肘を伸ばす)息を吐きます。
★腹筋トレーニング(クランチ)
仰臥位から上体を起こす際、腹直筋が収縮するので、息を吐き、身体を伸ばす時は、腹直筋が緩むので、息を吸います。
筋トレを効果的に、また体調不良を防ぐために、決して呼吸を止めないこと、深く息を吸い込み、ゆっくり長く吐き出すこと、出来れば鼻から吸って口をすぼめて、肺や気管支に負担をかけず息を吐くことを心がけましょう。
③競技前の不安や緊張の緩和と呼吸
音楽を聴いたり、瞑想したりと色々な方法が、競技者によって選択されていますが、鼻から息をたっぷり深くお腹をふくらますように吸って、口からゆっくりお腹をへこますように長く吐く、腹式呼吸を繰り返して、筋肉の緊張をやわらげ、精神を集中することが勧められています。
④競技における呼吸
水泳では、陸上と違って息継ぎのタイミングが選手によっても異なりますし、短距離走ではスタートからゴールまで無呼吸走、反対に、長距離走では走行にあわせてリズミカルな呼吸を、又、射的競技のように呼吸コントロールが重要な競技など、呼吸方法も様々です。
意識的な呼吸によって、怪我しにくい身体を作り、体調の管理、疲労の回復や、各競技や選手個人に適した呼吸法の選択、また呼吸筋を鍛えることによって、更なるパフォーマンスのレベルアップにつなげましょう。