> スポーツ医・科学委員会 > スポーツ医・科学豆知識 > 身体の使い方を習得してスポーツ障害を予防!

身体の使い方を習得してスポーツ障害を予防!

身体の使い方を習得してスポーツ障害を予防!

アスレティックトレーナー 中森 徹(高知県スポーツ科学センター)

 スポーツ傷害には転倒や衝突などの1回の外力により組織が損傷される“外傷”と、比較的長期間に繰り返される過度の負荷により炎症を起こす“障害”があります。この後者の障害は下記のようなことが主な原因となります。


 ③の手入れ不足や⑥の練習量が多いときは理解し易いのですが、④のテクニックについては修正がなされないまま、幾度と同じ部位の障害を経験されている方がいらっしゃいます。

 このテクニック(身体の使い方)については多くの方が、その競技特有の動きのことと捉えられる傾向にありますが、実は研究により人間の基本的な動作パターンや動作能力がその根底にあると分かってきました。そのため、多くのトレーナーは障害予防やパフォーマンスを向上させるために、細かな競技の動きを微調整するような指導やトレーニングメニューを処方するのではなく、基本的な動作ができる身体づくりを目的にプログラムを作成しています。

 この基本的な動作パターンを評価する方法としてFMS(ファンクショナルムーブメントスクリーン)があります。FMSは7つのテストから構成されていますが、この内の1つインラインランジを紹介いたします。
※実際のテストでは専用のキットを使用します。

インラインランジ

【方法】
1.膝蓋骨の下にある脛骨粗面(スネの骨の少し隆起した部位)から床までの長さをメジャーで計測します。

2.下の画像のように直線上に足を前後に並べます。両足の向きを前方に向けることが重要です。後ろ足のつま先から前側の足のカカトまでの幅は1で計測した長さとします。後ろ側が左足であれば、左手が首の後ろ、右手を腰の後ろにして体の後ろ側で棒をしっかり持ちます。棒が後頭部・上背部・殿部の中央から離れないよう、そして棒が地面に対して垂直を維持するように上体を起こします。




3.左膝が両足で作る直線上をタッチするよう重心を落とし、その後始めの姿勢に戻ります。




 この動作の中で息を止めてしまう、また下の画像のように棒が傾く、棒が身体から離れる、前側の足のカカトが床から離れる、後方の足の膝が前足カカト後方から横にずれるなどの動きをされた方にはそれを指摘して修正してもらいます。なお手足の位置を左右変えたパターンでも実施します。




 言葉での指摘だけで修正できる方はスポーツ現場でも指導者からの指摘ですぐ修正できるかもしれません。しかし修正ポイントが分かっていながらもこのインラインランジでのエラーが修正できない方、また開始時の姿勢が作れない方は可動部位の制限や固有受容感覚(歪みを伝えるセンサー)の低下、呼吸機能不全などが背景にあります。これらを修正するためのエクササイズを行うことで基本動作パターンを獲得することができ、競技動作の修正に繋がります。

 このランジ動作は床から立ち上がる際の片膝立ちの動きや庭の雑草むしりの動き、またスポーツではバスケットボールやサッカーの減速やストップ動作、方向転換時の姿勢であり、バドミントンなどのラケット競技においてもこれに近い動作があります。競技の中で足を前後に並べて重心を下げる動作で身体がぶれる方や流れる方、その動作時に膝や大腿部、腰などに違和感や痛みがある方は基本的な動作パターンを習得することで改善できる可能性があります。

 なおこのFMSは7つのテストから構成されており、全てのテストを行うことでその人の動きを客観的に知ることができます。
高知県スポーツ科学センターのトレーニングサポートでは競技者のパフォーマンスの向上と障害予防を目的として、トレーニングから始めるのではなく、現在の動きを知ることから始めています。