メジャー球宴史上初“リアル二刀流”で勝利投手の大谷翔平
➖肘、膝、足関節、3度の手術を乗り越えて➖
スポーツ医・科学 委員会
上初“リアル二刀流”で勝利投手の大谷翔平
➖肘、膝、足関節、3度の手術を乗り越えて➖
スポーツドクター 川上照彦(吉備国際大学)
大谷選手の活躍が止まりません。私も毎日結果を見るのが楽しみで、日課となっています。前半戦が終わり、7月12日現在、打者としてホームラン33本(両リーグ1位)、打率.279、打点70(リーグ3位)、盗塁12、投手として4勝1敗、防御率3.49とまさに二刀流、走塁を含めると三刀流ともいえる大活躍で、MLBの球宴でもホームランダービーで優勝は逃したものの勝利投手となっています。
しかし、大谷選手はこれまでスポーツ障害のために3度の手術をうけています。最初の手術は、日ハム時代に足関節の有痛性三角骨の除去手術を、そして2度目は、皆さんもご存じの通り、大リーグで新人賞をとったあと、右肘内側側副靭帯損傷(図2)に対するTommy-john手術(靭帯再建術)、そしてすぐ後に、膝の分裂膝蓋骨の除去手術をうけています。
これらの手術後、アスレティックトレーニングを積んだ結果が今の体をつくり、今期の成績となっています。この肘の手術に関しては多くの野球選手が経験しており、今も大リーグで活躍しているダルビッシュをはじめ、松坂、桑田、和田、荒木、藤川、田沢、そして古くはまさかり投法の村田兆治等々、多くの選手がこの手術をうけています。
では、この肘内側側副靭帯損傷に何故なるのでしょうか。病態としては、肘関節の内側に繰り返し加わる牽引力により靭帯が伸びて、ついには断裂してしまうということです。当然のことながら、投げすぎが一番の原因ですが、400勝投手の金田正一選手は当時弱小球団の国鉄スワローズから巨人で400勝もしており、肘を酷使したに違いないのですが、断裂し手術をしたという記録はありません。もと西武ライオンズから大リーグで活躍した松坂投手は、下肢、特に股関節が硬いがゆえに、肘、肩を傷めたと指摘されています。肘障害の原因の一つに下半身に加え、上半身、特に上位胸椎、肩甲帯の硬さが関係しているといわれています。
図3は大リーグで通算251勝をあげ、6勝をはさみ14年間10勝以上を記録し、サイヤング賞にも輝いたサバシア選手の投球フォームです。下半身~上半身、特に上位胸椎から肩甲帯が柔らかいことがよくわかります。柔らかいとケガをしにくいだけでなく、速い球を投げることができます。またこのことは、野球に限らず、オーバースローの競技すべてに当てはまります。
図4はバレーボールにおけるアタックと桃田選手のスマッシュ時の写真ですが、同様の柔らかさが見て取れ、バレーボールだとアタック時強い球を打つことができ、バドミントンにおいても同様です。私が外来でみている患者さんでバドミントンンの選手がいます。上半身が硬く、ラケットを振りかぶるときどうしても手首の背屈に余計な力が必要で、前腕背側の筋肉の痛みが取れません。局所の対象療法だけでは一時的に痛みは取れても再発を繰り返します。再発しないように根本的に解決するには柔軟性からみていく必要があるのです。
図5は上部体幹柔軟性テストです。検査方法は図の如く、顔の真下に手をついた肢位で、被検側の手のひら全体を後頭部に置き、誰かに検者になってもらい、後頭部から手が離れないように肘が正中線(床に置いた手の真上の位置)を越える位置まで移動してもらいます。この時顔の向きは体の回旋に伴わせ、後頭部から手が離れずに正中線を肘が反対側まで超えれば柔軟性あり、越えなければ硬いと判定します。硬い選手は肩甲帯を含め、上部体幹を柔らかくするようにストレッチを行ってください。方法はインターネットで調べるといろいろな方法が出てきます。