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コンプレッションウェアの効果について

コンプレッションウェアの効果について

吉備国際大学 川上 照彦

 コンプレッションウェア、『着圧服』『圧迫服』はマラソンや登山、自転車の愛好者が増えるにしたがって、多くの人が着用するようになってきました。私も登山時に、楽に山に登れるのではないかという淡い期待を込めて着用しています。今回、その筋肉疲労に及ぼす影響について、私自身が行った研究結果も含めてご紹介します。
 コンプレッションウェアは「ユニフォームタウン」の記事では、伸縮性の高い生地によって着用時の身体に圧をかけることで、身体にさまざまなサポート効果をもたらす機能性ウェアであり、その効果について運動機能の向上や疲労の軽減、疲労回復の促進、筋肉や関節への負荷の緩和など、多くの効用が紹介されています。筋肉への負荷の軽減効果の研究としては、立命館大学の後藤一成らによる『運動後のコンプレッションウェアの着用が筋疲労の回復や筋損傷に及ぼす影響の解明』が紹介され、30分のランニング負荷に対するコンプレッションウェアの着用が、冷却と併用すると、筋損傷の軽減に有効である可能性があるとしています。また疲労の軽減効果の証拠として、国際医療福祉大学の石坂正大らの『コンプレッションウェアが酸素摂取量および心拍数に及ぼす影響』を紹介しています。この研究は、トレッドミル上で歩行させ、徐々に負荷を強くして、心拍数が最大心拍数の85%となった時点でストップし、着用群と非着用群での最大酸素摂取量と心拍数を比較しています。結果としては最大酸素摂取量では差がなかったものの、心拍数は着用群で低く抑えられたというものです。
 私も吉備国際大学で、学生を対象に『コンプレッションウェアの着用が運動疲労回復に与える影響について』という研究をしました。この研究は、安静1分を挟んでスクワット30回を3回行う運動負荷をかけ、運動中のみアシックスのskins A400 ULTIMATEを上下着用してもらい、心拍数、自覚的運動強度、大腿直筋の筋硬度、筋肉疲労の指標としての血中乳酸値を測定し、非着用群と比較するというものです。結果はどの項目も全く有意差がでず、コンプレッションウェアはこの運動では全く効果がないというものでした。上記で紹介した二つの研究と比較すると、私の研究はウォーミングアップなしの非常に運動強度が高い短時間負荷による比較でした。以上の研究をまとめると、中等度までの比較的軽い運動では、心拍数などについてはコンプレッションウェアの効果があり、冷却を併用すると筋疲労の軽減に役立つ可能性があるものの、短期間の運動強度の強い負荷に対しては眼に見える効果は期待できないという結果でした。ただ、私の研究では、運動直後にコンプレッションウェアを脱いでおり、運動後も一定期間着用し続けた研究では、筋疲労抑制効果がみられたという報告があります。コンプレッションウェアの期待される生理的効果としては、筋肉を圧迫することにより、筋弛緩時にも筋疲労物質の排出の促進が期待できるということから考えると、運動後すぐにコンプレッションウェアを脱ぐのではなく、2~3時間は着用するとその効果が期待できるのかもしれません。また、コンプレッションウェアの効果を上げるには、どの程度圧迫のかかる服を着るのかも影響し、購入する際十分吟味する必要があります。アシックスのコンプレッションウェアのサイトをみると、以前あった筋疲労の軽減効果をうたった宣伝はなくなり、ランニング時の効果として、筋肉の揺れを防ぎ、走りやすくなるというものでした。コンプレッションウェアの効果は、筋肉を締め付ける気持ち的効果が一番なのかもしれません。