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『脱水』について

『脱水』について

介護複合施設 輝 木下 雄介

今回は、低酸素環境でのトレーニングや選手のコンディショニングを中心に研究を行っている高知リハビリテーション専門職大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科、理学療法学専攻 教授 片山訓博先生に脱水について執筆の協力をお願いしました。非常に参考になる内容のため、ぜひご一読ください。

『脱水』について

高知リハビリテーション専門職大学 教授 片山 訓博

『脱水』と聞くと、衣服の洗濯時の脱水を思い浮かべる人も多いかもしれません。洗濯時の脱水は、洗濯した衣類から「水分」を取り除く作業です。一方、運動時などの身体の脱水は、運動によって汗をかき、汗から「水分」や「電解質」が失われることで起こります。「水分」や「電解質」は、体内では体液として存在し、体重の70~80%(小児では80%、成人では60%、高齢者では50%)を占めます。体液は、以下の重要な役割を果たしております。①体温調節、②酸素や栄養素の運搬、③老廃物の排泄、④組織の潤滑、⑤ホルモンの輸送、⑥免疫機能の維持。体液は、私たちの健康を維持するために極めて重要です。体液の量や組成が乱れると、さまざまな健康問題が引き起こされる可能性があります。その一つの原因が『脱水』です。

脱水の重症度は、体重の減少割合に基づいて3段階に分けられます。軽度の脱水は体重の3~5%減少、中程度は6~9%減少、重度は10%以上の減少とされています。脱水の症状は、筋肉や消化器から脳に至るまでさまざまです。軽度の場合、口の渇きや尿量の減少、頭痛、めまい、疲労感が現れます。中程度の脱水では、意識レベルの低下、痙攣、高体温、血圧の低下などがみられることがあります。重度の脱水では、意識喪失やショック状態に至り、最悪の場合は死に至ることもあります。

脱水の予防には、体液の減少を防ぐために、「夏の体調管理について(藤田幸子先生)」にも述べられているように、ミネラルや糖分を含むスポーツドリンクを摂取することが大切です。

体の脱水を判断する方法は、以下の2つがあります。①尿の色を観察する、②尿の比重を測定する。
尿の色は、図のゴールデンオレンジ以下の色であれば、脱水の可能性が考えられます。

https://pathway.jpnsport.go.jp/sports/column04.htmlより引用

尿比重は、デジタル屈折計を使用して簡単に短時間で測定でき、サッカー日本代表はワールドカップ(W杯)南アフリカ大会で毎朝測定していました。脱水の判断基準は、オーストラリアスポーツ協会(AIS)によれば、尿比重値が1.020~1.025未満の場合は脱水傾向、1.025以上の場合は脱水とされています。

高校野球選手の夏の競技環境は、極めて過酷なものと考えられます。2021年7月28日に高知県県営春野球場で行われた全国高校野球選手権高知大会の決勝戦(晴天)におけるバックネット裏のWBGT(WBGT詳細は、「夏の体調管理について(藤田幸子先生)」をご覧ください)のデータを図に示します。

WBGTの値は試合開始の13:00よりも14:20以降の時間帯で28℃を上回り、熱中症のリスクが厳重に注意される状態となります。この状況は、試合5回終了後のグランド整備時に行われる散水によって湿度が急激に上昇することが原因と考えられます。2022年・2023年度も同様の傾向を認めました。

水分摂取は、試合中の摂取が重要ですが、脱水を予防するために試合前からの水分摂取も重要です。試合当日の朝までには、前日の体重減少量の1.5倍の水分摂取をしてください。また、試合と練習の2時間から4時間前までには、体重の10倍の水分量を摂取することが推奨されます(例:体重が60kgの場合、600mLの水分を摂取してください)。試合・練習の持続時間が1~3時間の場合、試合中はNa⁺とCI⁻をそれぞれ100㎖あたり40~80mg、糖質を6~8%含む飲料を摂取することが助言されます。
脱水を予防し、危険な熱中症を防ぐために、残暑厳しい夏から秋のスポーツを楽しむ際には、上記の指針に従い水分摂取に留意してください。