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スポーツ選手の腰痛

スポーツ選手の腰痛

スポーツドクター 喜安 克仁(高知大学医学部付属病院)

 みなさんは運動やトレーニングを行なっている時に腰の痛みや違和感を感じたことはありますか?今回はスポーツ選手に起こる腰痛に関してお話しします。
 腰の痛みは、日常生活でも起こりやすい症状ですが、スポーツ選手の腰痛発生率は運動していない方よりも高い傾向にあります。腰の痛みの原因部位としては、筋・筋膜、椎間関節、骨、椎間板などが考えられます。通常腰の痛みは発生してから1~2週間で軽減・改善することが多いですが、長期化する痛みや強い鋭い痛みがある場合、重篤な疾患が含まれていることがあります。その代表的な疾患を挙げてみます。

1.腰椎椎間板ヘルニア

 間板の中心にある髄核が、脊柱管へ脱出することで発生します(図1)。多くは腰痛が発生し、その数日〜数週間後から下肢へ走る痛みが出てきます。ある日突然痛みが出てくることが多く、体動時や運動時だけでなく座っていると痛みが増強することが特徴です。一般的には20~40歳の男性に多いですが、20歳以下の方にも発生します。診断にはX線、MRI、CTが必要です。

 治療方法は発生してから2〜3ヶ月間運動を控えること、痛みの程度で内服治療やブロック注射を行います。時間が経過すればその脱出したヘルニアが吸収され、痛みも軽減してきます。ただ症状が強い時や改善しない時は手術が必要になることがあります。手術と言っても、最近では小さい切開で行う方法も開発されています。


 ヘルニアに類似した中に注意する疾患があります。未成年者で椎間板ヘルニアと診断されている中には、骨端輪骨折が隠れていることがあります(図2)。これは、椎体周辺の成長軟骨が骨折してヘルニアのように突出する病態です。腰の強い屈曲制限が残るため、腰痛が続くときは詳しい検査をお勧めします。

2.腰椎分離症

 腰の骨(腰椎)に起こる疲労骨折の一つです。腰を前に曲げたり後に反らしたり、回旋させたりする繰り返しの反復動作で、椎弓の関節突起間部で疲労骨折を起こします(図3)。野球、サッカー、体操、陸上競技、バスケットボール、バレーボールなどの競技に多いと言われています。症状は鋭い腰痛です。疲労骨折なので徐々に痛みが出てくることが多いです。最初は運動中に腰痛を感じることが多く、症状が強くなると授業中など日常生活にも支障が出てくることがあります。分離症は発育期年代に発生することが多く、つまり未成年者に多いと言われています。
 分離症の治療方法は、約3ヶ月間の安静、装具(コルセット)装着が必要になります。分離症には初期(骨折が発生したばかり)、進行期、終末期(骨折して時間が経過した状態)に分類されます。初期は終末期に比べて骨癒合を得られやすいので、できるだけ初期で発見し、治療する方がいいのですが、実際は終末期で発見されることもあります。装具などの保存治療では骨折が治癒せず疼痛が改善しない症例、進行期や終末期で腰痛が改善しないときは手術が必要になることがあります。

 一般的な腰痛の予防方法として、臀部や股関節周囲の筋肉(大臀筋や腸腰筋、ハムストリングなど)のストレッチや柔軟性向上が重要です。これは腰椎へかかる負荷を減らすためです。それでもスポーツ中に腰痛が発生したとき、特に症状が2週間以上続く場合、痛みが鋭い場合、下肢に走る痛みがある場合などは、ヘルニアや分離症などが疑われます。そのときは整形外科で検査を受けることをお勧めします。疾患の程度や病態で、治療方法や治療期間が異なってきます。診断後は主治医や監督、トレーナーと相談し、トレーニングメニューを組んでいく必要があります。
 腰痛が慢性化するとパフォーマンスが低下しますので、腰痛ぐらい我慢すれば大丈夫ではなく、腰痛の原因の早期発見、早期治療を心がけてください。