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オーバーヘッドスポーツに求められる肩甲胸郭の柔軟性

理学療法士 木下 雄介(介護複合施設 輝)

 こんにちは。理学療法士の木下雄介(介護複合施設 輝)です。前回「身体の柔軟性、特に足関節について」というテーマで掲載させていただきましたが、スポーツにおける「柔軟性」について別視点からの内容を掲載したいと思い、今回、JCHO東京新宿メディカルセンター副理学療法士長の濱中康治氏にご協力を依頼しました。 濱中氏は リオデジャネイロ五輪と東京五輪で水球男子日本代表のトレ ーナーを務められており、非常に参考になる内容のためご一読いただけますと幸いです。

オーバーヘッドスポーツに求められる肩甲胸郭の柔軟性

理学療法士 濱中 康治(JCHO東京新宿メディカルセンター)

 みなさん、はじめまして。JCHO 東京新宿メディカルセンターの理学療法士、またリオデジャネイロ五輪と東京五輪で水球男子日本代表のトレーナーを務めさせていただいた濱中康治と申します。今回、御縁がありこちらでスポーツに関わるトピックを書かせていただくことになりました。
 私は病院では幅広い年齢層の野球選手や柔道選手などに関わり、また病院外のフィールドでは水球のトップ選手たちにトレーニングを指導し、ストレッチやマッサージなどを用いながら選手のコンディショニングが少しでも良い状態に改善するようお手伝いをしています。そのような経験から得られた知識をみなさんと共有し、少しでもお役に立つことができれば幸いです。
 さて、野球やバレーボールなどの、いわゆるオーバーヘッドスポーツでは、しばしば肩関節、肘関節への負担による故障を抱える選手がいます。泳ぎ、ボールを投げる水球も例にもれず、肩肘の障害が多発します。そのような場合、もちろん、肩関節周囲や肘関節周囲の柔軟性を高めることも必要ですが、それだけでは不十分です。肘を肩より高い位置に挙げ、力を発揮することが必要な競技では、動作時には肩肘だけでなく肩甲骨周囲の筋やそれを支える胸郭が一体となって撓り(しなりながら、力を発揮しています。肩甲胸郭の硬さがある状態で動作を行うと、肩や肘の動きに頼って力を発揮することになり、肩肘への負担が増し故障のリスクを高めることになります。

図1.肩肘の負担を減らすためには肩甲胸郭の柔軟性が必要
a.いわゆる胸が開かないため肩甲骨周囲の動きも乏しくなり、肩肘への負担が増す
b.胸が開くことで肩甲骨周囲の動きが増し、肩肘への負担が減るとともにパフォーマンスが向上する


 つまり肩肘への負担を軽減するためには、肩甲胸郭の柔軟性が必要になります。実際、野球や水球のトップ選手は肩甲胸郭の柔軟性に優れ、広い可動域の中で力を発揮できる選手が多いです。この肩甲胸郭の柔軟性は競技パフォーマンスの向上と障害予防の両方の観点から非常に重要な要素であり、私はオーバーヘッドスポーツの多くの選手に、日々のコンディショニングの一環として、それらの柔軟性を効率的に高められるセルフストレッチを指導しています。これをお読みになられている選手のみなさんも実践してみてはいかがでしょうか。


図2.胸椎伸展のストレッチ
伸長される部位:胸椎、胸部前面の筋群など。両手に重りを持ち、肘を近づけるように腕を閉じる。写真では、胸椎の下に丸めたタオルを挿入することで胸椎の伸展を引き出している。

図3.後斜系のストレッチ
伸長される部位:上肢拳上側の広背筋と反対側の大殿筋など。股関節の屈曲、外転角度や膝関節の屈曲角度によって大殿筋の伸長度が変わる。


図4.側胸部(肋間)のストレッチ
伸長される部位:一側の肋間筋、腹斜筋、広背筋と反対側のハムストリングスなど。
一側の下肢を伸ばし、伸ばした側に体幹を側屈させる。胸椎を伸展、回旋させるように意識させる。

図5.胸椎回旋のストレッチ
伸長される部位:大胸筋、肋間筋、腹斜筋など。
片脚を前に出し、反対側の手を大腿にひっかけて体幹を回旋させる。胸椎を伸展、回旋させるように意識させる。


図6.フルアークストレッチ
伸長される部位:下肢伸展側の腸腰筋、腹斜筋、広背筋など。
片脚を前に出し、出した側に体幹を側屈させる。胸椎を伸展、回旋させるように意識させる。

図7.プローンツイストストレッチ
伸長される部位:大腿筋膜張筋、中殿筋前部線維、腹斜筋、広背筋など。
腰椎が過伸展しないように注意する。パートナーストレッチとして実施する場合は肩甲骨周囲を十分に固定すること。